■100円ショップとマッチ
開拓の経緯
家庭用マッチのポケットサイズは12個を包装して販売しているのが通常の売り方である。
1995年にコンビニエンスストアKGC(国分グローサーズチェーン株式会社、店名はコミュニティ・ストア)からマッチ販売の引き合いが来たとき、
12個パックだとホームセンター等で安く売ってるところもあって価格が比較されるのを避けるため、
半分の6個パックにして定価120円で販売することを提案し採用された。
この時マッチの柄が桃印とツバメ印と象印とありますがどれがいいですかと提示したところ、担当バイヤーは「全部やります」とのことであった。
これはマッチの柄に地域性のある業界では通常考えられないことで初めての試みであった。
この3柄同時販売は後々100円ショップで棚に3種類が並ぶことになって棚のフェイス(面積)を取るのに誠に有利であった。
この6個パックをダイソーに納入したのが1995年で100円ショップの品揃にマッチが初めて登場したわけである。
現在は大手4社に集約されているが当時は個人店も多く従って供給する問屋も多かった。
そこで扱い問屋を調べるべく、常日頃「業界情報を持っているので何でも聞いてください」と言ってくれている帝国データバンクに問い合わせたが、
まだ100円ショップのデータは分類にないと言われた。
新聞に統計が出たり業界データがあるようなところはもはや新業態ではないことを学んだ。
しかたがないので100円ショップ個人店の店の前に積んであるダンボール箱の荷札で送り主を見て問屋を探した。
結構手間のかかることであった。
その頃ブローカーも含め50社前後が営業していた。
1996年にはオースリー1998年にセリア(旧山洋エージェンシー)とワッツ2003年にキャンドゥに納品して100円ショップ業態の開拓は終わった。
(キャンドゥの取り扱いが遅くなったのは前身の会社の倉庫が火災にあったことがあり、火に関連するものをずっと扱わなかった経緯がある。)
100円ショップ業態の位置付け
100円ショップは死筋商品ばかりを集合して売れ筋に転換させた業態である。
もともと販売頻度の少ない商品をスーパーマーケット等の軒先を借りて移動販売していたのであるが1990年頃から常設店で売るようになった。
100円ショップがマッチをどのくらい売るかというと、線香が10個売れているときにローソクは3個マッチは1個売れる、
これが線香ローソクマッチの販売比率である。
店舗面積の大小もあるので一様ではないが平均してマッチは100円ショップ1店舗で月間約20個をを売り上げる。2018年現在国内に約7000店舗あるので、14万個売っている計算になる。
これは家庭用マッチの全販売量の2割弱に相当する。
スーパーマーケット、ホームセンターが出現する前、マッチは荒物屋で専ら売っていた商品で、まさに100円ショップは平成の荒物屋である。
マーケティング的意義
マッチは年間一人当たりの消費量がわずか7円という死筋商品である、死筋商品の集合体である100円ショップと相性が良かった。
100円ショップは平成のデフレ時代に良く適合した業態で円安にもかかわらず(輸入品の割合が高いが)2017年も7%の成長をした。
この10年間は総合スーパー・ホームセンター等へのインショップ出店がめざましい。
従ってマッチの販売も他社マッチメーカーの売り場を安値で横取りしたりすることなく、
100円ショップの伸びに応じて自然に販売量が増大しシェアを伸ばすことができた。
他社マッチメーカーが気付かない極初期に取り組んだことが楽だった。
1995年当時は商談の相手は社長、専務で商品を見せればその場で決まる、細かいことはなにもない。
ところが10年もたつと商談相手は担当バイヤーに代わり量販店の仕入プロのような人が来ていてなかなかうるさい、
商品採用までに3か月かかるとか、協賛とか、JANコードを付けて商品回転率をみるとか、もともと死筋商品の集積なのに面白い現象となっている。
価格面においては2009年頃までは独占状態であったので適正利益が確保されたがその後他社マッチメーカーも参入し競合状態になりレッドオーシャン化した。
マッチであるので金額ボリュームは小さいけれども広域販売でスケールの大きいマーケティング場面を経験したわけである。
黒田 康敬
2018年10月14日