■二重安全マッチ
大正2年7月1日 登録第59641 良燧社
二重安全マッチとは安全マッチでなお且つ軸木がインプル加工されているものということ。
まず安全マッチとは発火剤を箱の側面に塗り燃焼剤を軸の頭部に付けて、
両方を擦り合わせることによって発火するマッチ(いわゆるロウマッチでないもの)。
次にインプル加工とはマッチ軸木に燐酸アンモニア等の薬品溶液を浸透させて、
軸木の燃えかすが灰になるのではなく炭化して落ちないように処理した軸木。
あまり聞きなれない「二重安全マッチ」とは清水誠の造語である。
明治11年パリ万国博覧会を視察方々ヨーロッパに行った清水誠は、ドイツでこの二重安全マッチを見つけた。
マッチの軸の燃えかすが炭化して飛び散らないということは木造家屋に住まう日本では火事の心配がなくなるので
「日本ノ為メニハ至良之マッチ」と記した誠に勢い込んだ清水の報告書(明治11年10月11日付)がある。
帰朝しておそらく清水誠はこの二重安全マッチを製品化したであろうがその形跡は不明である。
明治11年から35年を経て瀧川弁三の良燧社はその名もずばり「二重安全マッチ」のツバメ印の商標登録をしている。
モエカス・ヲチズ・スミトナルと表記されているので国内向け製品であることは明白であるが、
実際には販売実績があったかどうか疑わしい。
日本の生活は西洋のように部屋の四隅にあるキャンドルに火を付けて廻るとか、
絨毯敷きの室内を歩きながらタバコに火をつけるというような習慣はなく、
火を扱う場所は決まっているので二重安全マッチの必要性がなかったからである。清水誠の思惑ははずれた。
日本で生産したマッチでインプル軸を使った事例は、宮内省に献上した銀桜マッチと、
欧米向け輸出マッチだけであった(今は国内向けマッチもインプル軸仕様である)。
安全マッチのJIS規格でもインプル軸は例外で、インプル軸を使用している場合はその旨を箱に表示しなければならなかった。
インプル軸が標準仕様になったのは平成21年1月20日のJIS規格改正からである。
黒田 康敬
2011年09月05日